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その11 廃用症候群と四肢の拘縮

アルツハイマー型認知症が進行し最終段階になると、発語がほとんどなくなり、自分で歩いたり座った姿勢を保つこともできなくなります。そのころになると、手や脚の関節が固くなり、拘縮と言われる状態になることがしばしば見られます。拘縮すると自分で手脚が動かせないだけではなく、他の人が動かすのも困難になります。この段階になると日常生活全般に全介助が必要になるわけですが、拘縮があると、介護者によるベッドから車いすへの移乗などが困難になってきます。

アルツハイマー型認知症の国際的進行度を示すFASTという分類によると、最終段階は7番目のステージ7と呼ばれ、さらにaからfまでの亜段階に分けられています。ステージ7aでは言語能力が低下し、5,6語までの言葉が発せられるのみになります。ステージ7bでは、語彙がただ1語のみになります。ステージ7cでは歩行能力が失われ、ステージ7dでは座位が保てなくなります。そしてステージ7eでは笑うこともできなくなり、ステージ7fの昏迷および昏睡という意識低下状態に至ります。認知症が進行して寝たきりの状態になると、数か月ほどで拘縮が出現してきます。外国の統計によると、7aや7bの段階のアルツハイマー型認知症患者の40%に拘縮を認め、7d以降では95%までに上るそうです※1。体全体の姿勢としては、膝や肘が曲がり、手首も屈曲し、掌も丸く握るような状態となり、胎児の姿勢に似てきます。また、神経反射でも、新生児にしか見られない反射が出てきたりします。いわゆる「幼児返り」のような状態になるわけです。大局的に見ると、人間がこの世に生を受けて成長し大人になって、今度は次第に衰え、最終的には土に還るという過程でしょうか。

認知症以外でも、いろいろな原因で歩いたり座れなくなって寝たきりになると、「廃用症候群」と呼ばれる状態となり、使われない筋肉は筋力が低下し萎縮をきたし、ますます使えなくなります。数か月そのままであると、関節が固くなる拘縮が見られ、進行するとほとんど動かせなくなります。拘縮のメカニズムは明らかではないようですが、結合組織の成分であるコラーゲンが増生し、筋肉が線維化するという報告があります※2。そして、関節を曲げる筋肉の方が伸ばす筋肉より大きいので、曲げる力の方が強く働き、曲がったまま固まってしまうようです。一旦、筋力低下や拘縮が進行してしまうと改善するのは非常に困難なので、やはり予防することが大切だと言われています。怪我や手術が原因で、四肢や身体が動かせないのが一時的である場合には、早期から運動やリハビリを行って予防に努めることが勧められています。

ところが認知症が進行していくつもの関節に拘縮が見られる場合には、予防はおろか改善させることも非常に困難です。進行するのを少しでも抑えられる方法があれば良いでしょうが、確実なものはないようです。その上、寝たきりになって体が動かせないと、圧力がかかる体の部分に褥瘡ができやすくなります。また、拘縮もさらに進行すると、手をギュッと強い力で握りしめて爪で皮膚を傷つけたり、掌の清潔が保てなくなり、真菌などによる感染症が起こったりします。これらはケアの工夫である程度予防や軽減ができます。体とベッドやいすの間にすき間を作らないようにクッションやタオルを置いて適切なポジショニングを保ったり、定期的に体の向きを代える体位変換を行ったり、手にスポンジなどを握らせたりする方法などです。


※1 Clinical Stages of Alzheimer’s. Fisher Center for Alzheimer’s Research Foundation.
※2 関節可動域制限の発生メカニズムとその治療戦略、沖田実 理学療法学41(8): 523-530, 2014.

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