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その22 訪問診療患者語録

訪問診療は、高齢や病気で通院が困難な患者に医師が継続して訪問して診療を行うシステムです。特に施設入居している高齢者の訪問診療は、厚労省からは「健康相談」と位置付けられています。私たちのクリニックでは、病気だけではなく、心身の健康にかかわる食事・睡眠・排尿・便通などの日常生活一般に関してもアドバイスを行っています。
 月に2回定期往診をして、「体調はどうですか」と聞くと、患者さんからは「変わりありません」や「大丈夫」、調子が特に良い場合には「最高」や「絶好調です」という答えも返ってきます。逆に調子が悪い時は、「腰が痛い」や「便秘です」などと、痛みや便通不調の訴えがよく聞かれます。

外来に一人で来る患者さんであれば、訴えは言葉通りに受け取り、さらに詳しく病状を聞いたり、薬の調整をしたりできます。ところが、介護を要する高齢者、特に認知症がある程度進んでいる患者さんでは、本人が訴えることが必ずしも事実とは限りません。たとえば、本人が診察時には便秘や下痢などを訴えても、それはずいぶん前のことで今は治っていたりすることがあります。具合が悪かった時のことが強く印象に残っているので、今もそうだと思っているのでしょう。そこで私たち医療チームは、診察の際には家族や施設職員などの観察や意見を大いに参考にします。
 施設の職員は、注意深く日常生活の様子を観察し記録に付けていて、また入居者の生活習慣も分かっているので、とても頼りになります。進行した認知症がある方で自分でトイレに行く方などは、なかなか便通の状態は把握できないことがあります。お通じがあってもそれを職員に伝えてもらうことが難しいのです。施設職員は、トイレに行く姿をさりげなく観察して回数を把握していたり、パンツやトイレを汚しているのを見て排便があったことを察知したりします。こんなに排便状態を確認するのが大事なのは、施設にいる高齢者は食事や水分の摂取が少なく、運動不足もあって便秘がちなうえに、便秘がひどくなっても気付かず、腸閉塞の状態になることがしばしばあるからです。

さて、そのほか診察時には痛みや不調を本人が強く訴えていても、診察が終わるとケロッとして全く問題なく生活していることがあったりします。逆に転倒して骨折し痛みが強いはずなのに、痛いと訴えなかったり、平気で歩いている場合さえあります。さらに認知症が進んでいる患者では、診察をしてもすぐに忘れてしまって「まだ診てもらっていない」と言うこともあります。こういった食い違いや不都合も多々あるので、第3者に同席してもらうことは業務上必要不可欠でもあります。

また診察時には、言葉の端々に高齢患者の本音が垣間見られることもあります。たとえば「早く(あの世から)お迎えが来て欲しい」というのはしばしば聞かれますが、大抵が比較的元気な方で、特に悲壮感はありません。生き延びるのに飽きた、というところでしょうか。入居者同士の挨拶代わりのセリフかも知れません。もちろん逆に、90歳を超えていても「まだまだ長生きしたい」と言う方もいます。「調子はどうですか」と聞くと、健康の状態は答えずに「お金がない」と答える方もちらほらいます。昔商売をしていて、景気の話のつもりでしょうか。普通の外来診療では聞くことのないセリフなので、思わず笑ってしまいます。

認知症の高齢者が入居するグループホームの入居者の中には、「具合はどうですか」と聞くと、「体は良いけど頭が悪い」と自分でズバリと言ったりする方がいます。私は最初にこれを聞いた時には、自分で思うように頭が働かずつらいのかも、とドキッとしました。その割には本人はあっけらかんとした態度で、特に切羽詰まっている感じではありません。さらに踏み込んで、どんな時にどんなふうに思うのかなど具体的に聞いてみても、その質問に対しての答えはまずありません。これも挨拶代わりに習慣で言っているのでしょうか。ご家族の人が聞いたらどう思うかと、せつなく感じます。

(2021/05/25 17:28:20)

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