時をかけるおばあさんたちTime Travelling Old Ladies
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その33 8020運動とオーラルフレイル
高齢者診療をしていると、食事を喜んで食べられる人は元気で長生きであるという印象が強いです。高齢者の食べ物の好みというと、あっさりした和食と思われがちですが、実際には90歳代の超高齢でも、天ぷらやとんかつなど油ものが好きな人が結構いらっしゃいます。
食物をもりもりと食べるためには、歯の健康もとても大切です。私は、以前「8020(ハチマルニイマル)運動」というのを聞いたことがあるのを思い出しました。「80歳になっても自分の歯を20本以上持とう」という啓蒙運動ですが、今はどうなっているのでしょうか。
厚生労働省のWebサイトによると、「8020運動」は、1989年に当時の厚生省と日本歯科医師会が提唱して開始されたそうです※1。20本以上の自分の歯が残っていれば、硬い食品でもほぼ満足に噛むことができる、というデータの裏付けがあり、この数値目標が設定されました。開始当時には「8020」を達成している高齢者(75歳以上)は10パーセントもいませんでしたが、2016年には51パーセントと、その割合が著しく増加しています。順調に達成してきているように見えますが、その間に平均寿命も延びてきているので、「8020」に達していない人数も同時に増えているようです。
また、日本歯科医師会による「テーマパーク8020」というWebサイトもあり、「歯とお口のことなら何でもわかる」と銘打っているだけあって、有益な情報が満載されています※2。こちらのサイトでも「8020」に関しての情報があり、高齢になっても歯が多く残っている人や、歯が少なくても義歯等を入れている人では、義歯を入れていない人よりも認知症になったり、転倒したりする危険が低く、従って要介護になるリスクが低くなるという研究結果が示されています。
但し、80歳になった時に20本の歯を持つためには、もっとずっと前から歯磨きなどの健康習慣に気を付ける必要があると思われます。そして高齢になって歯の数が少なくなれば適切な義歯を整えて、食事ができるだけ快適にできるようにすることが大切だということです。
さらに高齢になると、咀嚼や嚥下の機能が落ちてきます。すると食事量を十分に取ることができず低栄養になったり、食べ物が食道でなく気管の方に入ってしまうという誤嚥や窒息のリスクが高くなってきます。誤嚥を起こすと誤嚥性肺炎をきたしやすくなり、その程度によっては致死的になることがあります。これら一連の高齢者の口腔機能低下は、加齢による身体全体の機能低下を表す「フレイル」という言葉に模して、「オーラルフレイル」と呼ばれています※3。
対策としては、通常の食事がうまく噛んだり飲み込んだりできない場合には、食形態を下げて対応します。やわらか食やムース食、ミキサーで処理したミキサー食などです。喉元で飲み込むことが困難であれば、食べ物や飲み物にとろみをつけて工夫できます。さらに飲み込みやすく、少しの摂取でも栄養価の高い、ハイカロリーや高蛋白のゼリーやドリンクなども市販されています。
一方、嚥下機能をできるだけ保持するための嚥下体操やリハビリなども行われています。また、誤嚥が原因で引き起こされる誤嚥性肺炎は、口腔レンサ球菌などの口腔内の常在菌が原因のことが多く見られます※4。それを予防するためには、口腔内の衛生状態を良い状態に保つことが重要です。自分で歯磨きやうがいができない高齢者には、家族や介護者がこれらの動作の介助を行って口腔内を清潔にします。
※1:8020運動とは | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)
※2:歯とお口のことなら何でもわかる テーマパーク8020 (jda.or.jp)
※3:オーラルフレイルの概要と対策 平野浩彦 日老医誌 52:336-342,2015
※4:誤嚥性肺炎の病態および原因菌について 赤田憲太朗ら J UOEH(産業医科大学雑誌)41( 2 ): 185-192, 2019
(2022/11/07 17:03:04)