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その32 人生の価値観

ロシアの軍事侵攻によって日本に避難していたウクライナ人女性が、7月末にウクライナに帰国するという記事を読みました※1。まだロシア軍からのミサイル攻撃が続く中、どうしてそんな危険な状態なのにウクライナに帰るのでしょうか。

この女性は53歳で、今年4月に札幌に住む娘を頼って来日しました。平和な日本に落ち着くことができてホッとしたと言います。住まいも見つけ、日本語を習い始め、ビザも延長することができて、働く許可ももらえたそうです。けれども日本語の習得がはかどらず、途中であきらめてしまいました。日本語ができなければやりたい仕事にも就けません。娘からは日本語をもっと頑張るように励まされましたが、なかなか難しいようです。
 一方、ウクライナの元の職場から、帰国して仕事に戻って欲しいとの連絡がありました。法律が変わって、長期間休職していると復職できなくなるそうです。そしてウクライナには夫も残っています。娘のいる安全な日本での生活と、夫と元の仕事のあるウクライナ・・・かなりの葛藤があったと思いますが、帰国することに決心したそうです。

実は日本に避難した人だけでなく、ウクライナ隣国のポーランドに避難した人々も、非常事態が続いているにもかかわらず、ウクライナに続々帰国しているそうです※2。理由は、上記のウクライナ女性と同様で、①家族がウクライナに残っている、②避難先の国では仕事が見つからない、③言葉ができない、だそうです。隣の国なのにウクライナとポーランドでは言葉が通じないことを、私は今回初めて知りました。そういえば日本人も、隣の国の言葉であるにもかかわらず、一般的には韓国語や中国語は分かりませんね。

もし、自分が避難民で言葉も分からない国に来たら、と想像してみました。戦火や災害から逃れてきて、まずは食べるものの確保、そして住むところの確保が必要でしょう。そしてホッとするのも束の間、避難生活が長引いてきたら、「これからの自分の人生に大切なものは何か」と考えるでしょう。やはり第一が家族との生活、特に子育てをしていれば、子供の生活が一番大切だと思います。次に仕事または収入を得る方法です。そう考えると、私もウクライナに帰国する人々と同様の結論にたどり着きます。つまり、家族との生活と仕事が最も重要であるということになります。但し、それは安全であることが大前提になります。多分、私を含め多くの日本人は、安全を最重要だと考える傾向にあると思うので、もし安全が確立されていないと、いくら母国でも帰国するのは二の足を踏むでしょう。危険な状態にもかかわらずウクライナに戻った人々は意思が強いと感心しますが、世界中の人々が心配しているので、帰った後の生活の様子もレポートしてもらえればと思います。

話は少し変わりますが、世界のそれぞれの国で「何が一番大切であるか」ということについてOECD(Organization for Economic Co-operation and Development: 経済協力開発機構)が定期的に調査しています。住居、仕事、収入、ワークライフバランス、生活の満足感、安全、健康、教育、コミュニティ、環境、市民参画の11の項目の中で、どれをより大切と思うかについて40の国の人々からアンケートを取り、その結果をまとめ、分析しています※3。その報告によると、世界中でもそれぞれの地域によって特有の傾向があるということです。日本を含むアジアと太平洋地域の人々が最優先したのは「安全とワークライフバランス」であったということです。ヨーロッパでは「健康」、北アメリカでは「生活の満足感」が第一で、南アメリカでは「教育、仕事、市民参画」がより重要という結果でした。また、年齢によっても重視する項目が違っており、若い人々は「生活の満足感、ワークライフバランス、仕事、収入、コミュニティ」を、高齢の人々は「健康、安全、住居、市民参画」をより重視していました。この年齢層による違いは、多くの地域で共通でしょう。
人生のいろいろな局面で、今何が自分にとって一番大切か、という自分の価値観を問い直し、確認することは重要だと思います。


※1:「帰るのは怖いけれど」ウクライナから避難の女性 帰国の途に | NHK北海道
※2:【詳しく】連日約2万人 なぜ今、ウクライナに帰国? | NHK | ウクライナ情勢
※3:What matters the most to people? Evidence from the OECD Better Life Index users’ responses. Balestra C et.al. 2018

(2022/08/25 14:25:47)

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