メディカルミッション

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その33 傷の治りとランゲルハンス細胞
その32 味覚障害と嗅覚障害
その31 ロコモティブシンドロームとその予防・対策
その30 私が決める私自身の介護
その29 清水選手『奇跡のレッスン』を見て
その28 健康寿命とシニアの体力テスト
その27 腰痛対策:骨盤を立てて座る
その26 セカンドライフの過ごし方
その25 誰にでも老化は来る
その24 スポーツ時の暑さ対策
その23 マインドフルネス
その22 コロナワクチン接種開始
その21 ネット依存、スマホ依存
その20 体年齢測定のしくみ
その19 目の健康をチェック!
その18 温泉は健康に良い?悪い?
その17 お肌ケア
その16 肩こりのツボマッサージ
その15 西洋医学がだめなら東洋医学はどうですか?
その14 下半身の筋力強化:バレトンがおすすめ
その13 シニアのスポーツ:私の5カ条
その12 インターネットでワークアウト
その11 夢のお告げ または 記憶のフィルタリング
その10 患者へのアドバイスの伝え方
その9 人間の宿命、腰痛とその対策
その8 ニュースとデマと現実と:新型コロナウイルス感染によせて
その7 寝る前ヨガ
その6 新・ウォーキングの常識
その5 ゴルフ肘、テニス肘
その4 良い姿勢の効能
その3 簡単で効果的なダイエット
その2 フットケア、私の場合
その1 体調を崩したあと、改めて健康に感謝!
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その33 傷の治りとランゲルハンス細胞

私が年を取っていくにつれて実感しているのは、お酒に弱くなった、疲れやすくなった、熟睡できなくなった・・・などいろいろなことがらがありますが、今回は傷の治り方に関しての話題です。傷と言っても大きな深いものではなく、日常的にできる些細な傷のことで、切り傷や虫刺され、軽いやけどなどです。若いころを思い出してみると、こういった小さな傷ができても、2,3日のうちに治ってすぐ忘れてしまったように思います。ところが今は、治るのにかなり長い時間がかかるようになりました。場合によっては1,2週間ヒリヒリと痛かったり、感染を起こして抗生剤が必要になったり・・・。これらの傷の治りの遅さや悪さは、年を取ったせいでしょうか。

加齢によって皮膚の張りやつやが失われ、しわができたり血管や骨が浮き出てくるのは、どなたでも経験することでしょう。皮膚には見た目の違いだけではなく、機能的にも変化が起こってきます。以前、私のエッセイ「やっぱり健康が一番! その17 お肌ケア」で話題にしましたが、老化によって皮膚の水分量や皮脂分泌量は低下し、さらにコラーゲンやエラスチンなどの細胞外マトリックスも低下、変性します。その結果、外界との物理的バリアという皮膚の機能が低下してきます※1。外からの異物や微生物が侵入したり、内部に影響を与えやすくなるということです。
 表皮はいくつかの層に分かれていて、外側から「角層」「顆粒層」「有棘(ゆうきょく)層」「基底層」と呼ばれています。このうち有棘層というレベルに存在する「ランゲルハンス細胞」と呼ばれる細胞がありますが、この細胞は皮膚の免疫機能に重要な役割をしています。ところが老化によってこのランゲルハンス細胞の数が減少し、免疫能が低下し、傷の治りが遅くなるそうです※2

さて、このランゲルハンス細胞ですが、調べてみるといろいろと興味深いことが分かりました。この細胞は、1868年に当時ドイツの医学生であったパウル・ランゲルハンス(Paul Langerhans)博士により発見されました※3。今では樹状細胞という種類の細胞に分類されています。樹状細胞という名のとおり、形態的に木の枝状に周囲に細胞の突起を伸ばしており、免疫に関する働きをします。皮膚の表面に異物(すなわち外来抗原・アレルゲン)が接触すると、ランゲルハンス細胞がその樹状突起を伸ばして抗原を捕まえ取り込みます。そして近隣のリンパ節まで移動し、そこでT細胞という種類のリンパ球に抗原を提示し、活性化させ、免疫反応を引き起こす仕組みとなっています。
 ランゲルハンス細胞は骨髄由来の細胞で、つまり赤血球や白血球など血液系の細胞の仲間であるということです。だから遊走性があるのでしょう。樹枝状の突起にはたくさんのレセプター(受容体)を持ち、細菌やウイルス、カビといった微生物だけではなく、放射線や紫外線、温熱や寒冷などの刺激も伝達する役目を果たしています。つまりランゲルハンス細胞はさまざまな機能を持った、とてもダイナミックに動く細胞なのです。但し、この細胞の免疫系での働きがいつも生体にとって有利に働いているわけではなく、過剰な免疫反応を引き起こしアレルギー反応となることもあります。

余談ですが、「ランゲルハンス」と聞くと、医者であればまず膵臓の「ランゲルハンス島」を思い浮かべることと思います。膵臓のランゲルハンス島は、皮膚のランゲルハンス細胞とは別物で、主にインスリンを分泌する内分泌腺組織のことを指します。実はこちらも同じパウル・ランゲルハンス博士によって、1869年に発見、報告され、彼の名前が付けられました。どちらも大発見だと思われますが、残念ながらランゲルハンス博士はそれぞれの機能を誤ったものだと解釈していたそうです。彼は、皮膚のランゲルハンス細胞をその形態から神経細胞と、そして膵臓のランゲルハンス島をリンパ節であろうと思っていたそうですが、どちらも後の研究者によって否定されました。ちなみに皮膚のランゲルハンス細胞は、カナダのラルフ・スタインマン博士が、1973年に抗原提示をする樹状細胞であると同定し、がんワクチン療法へつながる研究を行い、2011年にノーベル賞を授与されました。


※1:肌年齢って?肌の成長と老化のメカニズム 海老原全
※2:序論:皮膚機能と老化 千秋達雄
※3:ランゲルハンス細胞 過去・現在・未来 椛島健治 アレルギー 65(1): 22-24, 2016

(2022/11/07 17:18:10)

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