やっぱり健康がいちばん!Good Health Comes First!
- 過去ログを読む(クリック)
その29 清水選手『奇跡のレッスン』を見て
今回の北京オリンピックでは、スピードスケートやジャンプ、フィギュアスケートなど日本人の選手が伝統的に得意な種目だけではなく、スノーボードやカーリングなど比較的新しい種目でも日本人の活躍が目立っていて、喜ばしい限りです。私は、オリンピックに先立ち放送された(実は昨年度の再放送)NHKの「奇跡のレッスン」を見て、オリンピアンの清水選手が自分の能力を最大に活かすためにとことん追求するさまに感動しました※1。
清水宏保選手は、1998年の長野オリンピックでは500mスピードスケートで金メダルと1000mで銅メダル、2002年のソルトレークシティオリンピックでは500mスピードスケートで銀メダルを獲得しました。私もテレビで観戦した覚えがあり、清水選手がゴールした後フードを取った顔が、緊張感と共に爽やかだったのが印象に残っています。その後2010年に現役を引退してからは、清水さんは実業家として介護施設やスポーツジムなどを経営しています。今回のテレビ番組では、清水さんが青森県の高校のスケート部を訪れ、クラブ員5人に7日間のレッスンを行う、という内容です。
最初は清水さんに滑り方の基本につきアドバイスされても、部員たちは今一つ乗り気ではありませんでした。ところが、リンクで清水さんと一緒に並んで滑り、彼の深い前傾姿勢、スケート靴のエッジへの体重のかけ方、そしてコーナーワークでの脚の動かし方などを間近で見ると、皆目の色が変わって本気になっていきます。
このドキュメンタリーで私が最も印象深く、しかも驚いたのは、清水さんが試合のために体型まで変えようとしていたという発言でした。ある日、高校生たちと一緒にお弁当を食べていた清水さんは、天ぷらは衣を外して食べるようにして、摂取する栄養成分には気を使っている、という話をしました。さらに彼は、極限まで前傾姿勢を取るために、「試合の数日前から食事の量を減らして胃を小さくし、内臓の体積を減らして、より深く前傾できるように考えた」と言うではありませんか。試合で理想的な前傾姿勢を取るために、内臓を縮めることまで考えるとは・・・私はその凄まじいスポーツ根性とでもいうものに圧倒されました。既に世界でトップレベルの能力を発揮しているのに、さらに極限まで効果を上げるやり方を考える・・・果たして実際に効果があったのかどうか、また試合直前に食事を減らすとスタミナ不足になるのでは、など疑問もありますが、オリンピックで勝つためには単にトレーニングを人より多くしたり食事に気を遣ったりするだけではなく、非常識だと思われるような領域まで努力するのだ、と私は驚きました。
少し話は逸れますが、医療の領域でも、それまでの常識を破った治療法が出てくることはしばしばあります。最近私が驚いた治療法には、肥満治療のための胃の切除術や、潰瘍性大腸炎のための糞便移植術などがあります。少し解説を加えれば、前者は、重度肥満症で、糖尿病などの合併症を患っている患者などに胃を部分的に切除し、一度に沢山食べられないようにします。病変のない胃を部分的にもせよ切除するなんて、よほど病的な肥満に対する例外的な手術であろう、と私も初めは思いました。ところが、この治療法は食べる量を減らす以外の効果もかなりあるらしく、重度の肥満の合併症の糖尿病を改善させたり、心筋梗塞などの重篤な心血管疾患を予防する結果となっているそうです※2。
糞便移植手術の方は、潰瘍性大腸炎やクローン病などの難治性大腸疾患や再発性クロストリジウム・デフィシルという感染症などに適応があります※3。これらの疾患の患者の大腸に、健康な人の糞便から抽出した腸内細菌叢を移植する手術です。手術の結果、症状が良くなったり致死率が低下するといったデータが出ています。
さて、オリンピアン清水宏保さんの胃縮め作戦は、私にはこれらの治療法に勝るとも劣らない衝撃でした。そしてドキュメンタリーの最後にはスピードスケートの試合があり、清水さんにアドバイスされたトレーニングに励んだ高校生たちは、自己ベストの記録を打ち立てます。
※1:「スピードスケート 清水宏保 全力で挑んだ失敗が未来を拓く」 - 奇跡のレッスン - NHK
※2:肥満手術(メタボリック手術)|病名と症例|九州大学病院 先端医工学診療部 CAMIT|肥満手術など
※3:糞便移植(FMT) | 藤田医科大学病院 (fujita-hu.ac.jp)
(2022/02/28 18:55:31)