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その11 夢のお告げ または 記憶のフィルタリング
夜中に目が覚めた時に、日中起こった出来事の一部分がパっと記憶によみがえって、しばらく眠れなくなることがあります。私の場合、何か悩み事や考え事があって眠れないというのとは違って、日中はあまり気に留めずにスルーしたり、忙しさに紛れて忘れていたりする出来事について時々起こります。大抵は仕事つまり診療に関する事柄です。患者さんへの説明や検査、治療などについて、「こういう風にした方が良かったかも」というたぐいです。思い出してしまうと、「あーあ、夢の中でも仕事をしていたのか」と軽くがっかりしますが、単に忘れていたことを思い出す、というのともちょっと違う気がします。というのは、実際の場では全く気にしなかったこと、そしてその後覚えていなかったことでもよみがえってくることがあるからです。
自分が自覚していなかったことだとしても、やはり気になったことなので記憶のどこかに引っかかっていたのかも知れません。見過ごしていた事柄について、もう一度考え直すきっかけを与えてくれるので、私はこれを「夢のお告げ」と呼んでいます。良く気の付くアシスタントのようで有難いような現象ではありますが、夜中に一度気になると、詳細を思い出そうと努めたり、病気や治療について調べないと気が済まなくなるので、その後しばらくは寝付けなくなります。そして、その場で気付いて解決しておけば良かったのに、とフラストレーションが溜まります。
夢が記憶と関連があるという説は、昔からいろいろあります※1。精神分析学で有名なジークムント・フロイトの「夢判断」では、夢は無意識的な記憶からきている願望であると記されています。また、ノーベル賞学者のフランシス・クリックは、眠っている間に記憶の取捨選択がおこっているという説を提唱したそうです。最近の研究では、睡眠によって記憶が定着したり、逆に消去されたりすることが分かっています。そして、「レム睡眠」と呼ばれる、夢を見ているとされる時間帯には、脳の海馬や扁桃体などが活性化されているそうです。海馬は記憶の中枢、そして扁桃体は不安や好き嫌いなど情動に関連した部位です。もしかすると睡眠中に意識的や無意識的な記憶をまとめてフィルターにかけ、長期記憶に残すものと消去するものの選別を行っていて、その中から意識していなかった記憶がすくい出されるのかも知れません。
さて私の対策としては、日ごろから少しでも気にかかったことは、できるだけその場で解決するようにし、夜まで持ち越さないように努めています。検査や治療に関する知識を整理したり、自分なりの方針を明確に確立したり。また患者さんやその家族に適切にアドバイスができるように、医療だけでなく介護分野のことも頭に入れたり。多分何ごとでもそうでしょうが、1件解決すれば、類似事項に関しては次から前もって対処できるようになります。特に医療に関しては、SF小説で起こるような奇想天外なことはまず起こりません。人間の体に起こることは限られています。とは言っても、最近の新型コロナウイルスのパンデミックに関しては、誰にとっても予想外の状況になっていますが。私も「夢のお告げ」で鍛えてもらったおかげで、最近は夜中の悩ましい時間をあまり持たずに済んでいます。
※1:夢はなぜ見る、なぜ忘れる 最新研究で見えてきた理由 日経サイエンス 2020年2月25日
(2020/06/22 04:17:30)