時をかけるおばあさんたちTime Travelling Old Ladies
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その17 認知症のミニ知識① 長谷川式認知症スケール
今回から4回にわたって「認知症のミニ知識」と題して、一般の方々が基礎知識として知りたい、また私のエッセイでも良く出てくる話題に関してまとめたいと思います。第1回は長谷川式認知症スケールについてです。
認知症の検査に使われる知能テストは何種類かありますが、その中でも日本で特に良く使われているのが、長谷川式認知症スケールと呼ばれるものです。これは日本人医師の長谷川和夫先生によって考案されたものです。このテストの設問は以下の9問です。【】内は検査している認知機能や知能の種類です。全問正解で30点になります。
- お歳はいくつですか?(2歳までの誤差は正解)
- 今日は何年の何月何日何曜日ですか?(それぞれ1点ずつ計4点)【日時の見当識】
- 私たちが今いるところはどこですか?(自発的にできれば2点、5秒おいて家ですか?病院ですか?施設ですか?の中から正しい選択をすれば1点)【場所の見当識】
- これから言う3つの言葉を言ってみて下さい。(それぞれ1点ずつ計3点)後でまた聞くのでよく覚えておいて下さい。(以下の系列のいずれか1つ)
1:桜・猫・電車 2:梅・犬・自動車 【3つの言葉の記銘】 - 100から7を引くといくつになりますか?それからまた7を引くと?(それぞれ1点ずつ計2点)【計算】
- 私がこれから言う数字を逆から言って下さい。(6-8-2、3-5-2-9を逆に言ってもらう、3桁の逆唱に失敗したら打ち切る)【数字の逆唱】
- 先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言って下さい。(自発的に回答があれば各2点、ヒントを与えて回答があれば各1点) 植物・動物・乗り物 【3つの言葉の想起】
- これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言って下さい。(時計、鍵、鉛筆、スプーン、歯ブラシ等相互に無関係なもの)(それぞれ1点ずつ計5点)【5つの物品記銘】
- 知っている野菜の名前をできるだけ多く言って下さい。(途中で詰まり、約10秒待っても答えない場合にはそこで打ち切る)0~5=0点、6=1点、7=2点、8=3点、9=4点、10=5点)【言葉の流暢さ】
認知症のない正常な人の得点の平均は25点、20点以下が認知症という目安になっています。このテストだけでは重症度分類は行わないことになっていますが、15点が中等度の認知症の平均値、10点以下では高度の認知症とほぼ推測できます。
この検査は手軽にできてとても有用なので、私も初めての患者さんで認知症が疑われる方にしばしば行っています。認知症が次第に進んでくると得点も下がってくるので、症状が進行した場合や書類の作成を頼まれた場合にも行い、ご家族に点数の変化を説明すると喜ばれます。アルツハイマー型認知症は、次第に進行する変性疾患なので、1年で平均2,3点下がると言われています。また、いつも正確に判断できるかというと、患者本人に協力してもらわなければいけないので、十分な協力が得られない場合には正確な結果が出ないことがあります。例えば、いくつかの質問に答えられないと腹をたてたり、嫌になって続けられなくなる方がたまにいます。また、抑うつ傾向の患者さんでは、最初からやる気がなかったり、途中でくじけてしまって黙り込んだりして、低い点数になってしまうことがあります。
逆に認知症の症状はあるのに、この検査の点数は正常範囲内と良く、検査してもらった医師に「正常です」と言われ家族が困惑することもあります。私が経験した例では、患者さんはメンタルな症状が強い方で、物盗られ妄想が著しく家族の1人を責め続け、度々暴言暴力に発展するということでした。症状からは明らかに認知症が疑われましたが、知能テストでは正常値で、診察時の態度も良いので、最初に行ったクリニックでは認知症とは判断されなかったのだと思われます。認知症の診断はこのように判断が難しいこともあるので、認知症の診療に慣れた神経内科や、メンタルな症状が強い場合には心療内科などで相談すると良いと思います。
(2020/12/30 06:02:16)