メディカルミッション

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 過去ログを読む(クリック)
その33 傷の治りとランゲルハンス細胞
その32 味覚障害と嗅覚障害
その31 ロコモティブシンドロームとその予防・対策
その30 私が決める私自身の介護
その29 清水選手『奇跡のレッスン』を見て
その28 健康寿命とシニアの体力テスト
その27 腰痛対策:骨盤を立てて座る
その26 セカンドライフの過ごし方
その25 誰にでも老化は来る
その24 スポーツ時の暑さ対策
その23 マインドフルネス
その22 コロナワクチン接種開始
その21 ネット依存、スマホ依存
その20 体年齢測定のしくみ
その19 目の健康をチェック!
その18 温泉は健康に良い?悪い?
その17 お肌ケア
その16 肩こりのツボマッサージ
その15 西洋医学がだめなら東洋医学はどうですか?
その14 下半身の筋力強化:バレトンがおすすめ
その13 シニアのスポーツ:私の5カ条
その12 インターネットでワークアウト
その11 夢のお告げ または 記憶のフィルタリング
その10 患者へのアドバイスの伝え方
その9 人間の宿命、腰痛とその対策
その8 ニュースとデマと現実と:新型コロナウイルス感染によせて
その7 寝る前ヨガ
その6 新・ウォーキングの常識
その5 ゴルフ肘、テニス肘
その4 良い姿勢の効能
その3 簡単で効果的なダイエット
その2 フットケア、私の場合
その1 体調を崩したあと、改めて健康に感謝!
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その22 コロナワクチン接種開始

コロナワクチンを優先接種される予定となっている医療従事者の約7割が1回目のワクチンを接種された昨日、やっと私たちのクリニックにもワクチンが届きました。これからクリニックの職員、そしてかかりつけ患者で高齢者の方々に接種していく予定です。
 ワクチン接種希望の方々は予約が取れればひと安心ですが、接種を実施する私たち医療従事者にはいろいろな準備や懸念があります。現在接種が始まっているファイザーのワクチン「コミナティ」の取り扱いは、普段扱いなれている、例えばインフルエンザワクチンとは比べ物にならないほど複雑です。事務的には、ワクチンの数の申請、受け取り、保管に始まり、問診票やクーポンの処理、そして接種を受けた人のコンピューターシステムへの入力など、新しく、手間のかかることが山積みです。その上、3週間あけて2回目の接種が必要です。
 このコミナティはRNAワクチンという、今回初めて臨床に広く使用されることになった新しい種類のワクチンなので、医療的にも新しいことがいろいろあります。まず、ワクチンの接種の後に起こるかも知れない、アナフィラキシーショックを始めとする体調不良への備え、さらにさまざまな副反応も予期しておかなければなりません。医療スタッフの人数が十分で設備も整っている病院で接種を行う場合には、ショックなどが起こった際にも迅速に対応できるので安心です。ところが規模の小さい開業医では、できる範囲内の応急処置を整えて、万一の場合には救急搬送の可能性も考慮に入れて、あとは心の準備をするばかりです。特に患者の自宅や高齢者施設に往診に行ってそこで接種する場合には、時間も手間もストレスも半端ではありません。そうとも知らない患者さん宅では、「あ、先生、うちに来るついでに私の分もお願いします」と、配偶者の方に気軽に頼まれます。1人接種するのも2人接種するのも変わりないので、「いいですよ。念のため確認しますが、奥さんも65歳以上ですよね」と答えると、若く見られたと思って喜ばれたりします。

さて、コミナティの副反応は、インフルエンザワクチンなどに比べるととても頻度が高く、程度も強いようです。具合が悪くなって次の日に仕事ができず休む人も続出すると聞くと、怖くなりますね。幸い今までに接種した人々のデータが蓄積されており、それによると高齢者ではアナフィラキシーショックになったり、副反応を訴える人が若い人に比べるとずっと少ないようです。先日厚労省から発表されたデータでは、アナフィラキシーショックは医療従事者110万件接種のうち79件見られましたが、60歳代は3件、70歳以上では0件だったそうです。高齢者の副反応の頻度の方も、37.5度以上の発熱が9.4%、倦怠感が38%、頭痛が20.5%と、それぞれ全年齢のデータでは、38.1%、69.3%、53.6%だったので、高齢者の副反応の頻度は半分から4分の1程度に少ないようです。これは高齢者の方々には良い知らせですが、ではどうして少ないのでしょうか。

実は、高齢者では免疫系が加齢によって衰えることが知られており、「免疫老化」と呼ばれています。免疫の種類には自然免疫と獲得免疫の2種類があります。自然免疫とはもともと備わっているしくみで、病原体を認識し、マクロファージや白血球などが取り込んで処理します。一方、獲得免疫は一度侵入した病原体の情報を記憶し、再度侵入された際にはそれに対する抗体を作って処理するしくみです。加齢によって衰えるのは特に後者の獲得免疫の機能で、20歳代のピークの頃と比べると40歳代では半分に減少してしまいます。
 高齢になって獲得免疫が衰えるメカニズムはいくつか報告されています。京都大学の湊ドクターのグループは、PD-1陽性Tリンパ球という種類の細胞が増えることが免疫老化の原因であると発表しています※1。一方、愛媛大学の山下ドクターらのグループは、Tリンパ球の老化に従ってMeninというタンパク質の機能が低下することが原因と報告しています※2

このように高齢者で免疫系が老化するのであれば、コミナティ接種後の副反応も疑似免疫反応なので、高齢者で頻度が低下するのは理解できます。でもそうすると、ワクチンの効果も低下するのでしょうか。これは気になるところです。この懸念に対しても、つい最近信頼できるデータが発表されました。横浜市立大学や川崎医科大学のデータによると、コミナティを2回接種した後は9割以上の人に抗体価が検出され、高齢者では多少抗体価が低下するものの、効果は期待できるということです。また、変異型ウイルスに関しても効果が期待できる量の抗体が産生されていたという嬉しい結果が出ました。


※1:免疫老化のメカニズムを解明しました — 京都大学 (kyoto-u.ac.jp)
※2:共同発表:免疫システムの老化を引き起こす仕組みを発見 (jst.go.jp)

(2021/05/25 17:31:09)

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