メディカルミッション

時をかけるおばあさんたちTime Travelling Old Ladiesfollow us in feedly

 過去ログを読む(クリック)
その31 高齢者の転倒・骨折
その30 高齢者の頻尿
その29 未来の介護
その28 認知症、最近の動向
その27 高齢者の難聴:補聴器と人工内耳
その26 地域の認知症高齢者
その25 高齢者の下腿浮腫
その24 便秘対策:腸活で予防し、下剤で治療する
その23 認知症による行方不明
その22 訪問診療患者語録
その21 高齢者の不眠とメラトニン
その20 認知症のミニ知識④ アルツハイマー型認知症 治療およびケア
その19 認知症のミニ知識③ アルツハイマー型認知症 研究の歴史
その18 認知症のミニ知識② アルツハイマー型認知症の病期分類 FAST(Functional Assessment Staging)
その17 認知症のミニ知識① 長谷川式認知症スケール
その16 母親と息子の絆
その15 バーチャル認知症外来
その14 高齢者の熱中症リスク
その13 高齢者世帯の認知症介護
その12 認知症を予防するには
その11 廃用症候群と四肢の拘縮
その10 記憶のしくみ:アメフラシから人間まで
その9 メンタル症状と認知症
その8 デイサービスに行く?行かない?
その7 認知症のご近所トラブル
その6 「認知症のリアル」のエッセンス
その5 お盆の看取り
その4 高齢者の幼児返り
その3 独居で介護サービスを受け入れた暮らし
その2 独居老人が認知症になった時
その1 時をかけるおばあさんたち
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その28 認知症、最近の動向

2020年初めからのほぼ2年間、医療ニュースの第一はいつも「コロナ」「コロナ」でした。その影響で新型コロナ感染症を恐れて、他の疾患で医療機関を受診する数が減っていることも報告されています。例えばがん検診を受ける人数が減っていますが、コロナのせいでがんになる人が減少するとは思えないので、がん患者が早期発見されないままに進行してしまい、適切な治療を受ける機会が失われることが懸念されています。
 認知症はどうでしょうか。高齢者が新型コロナ感染症にかかると若い人よりも重症化することが多いので、多くの高齢者は外を出歩くのを控えたり、デイサービスなどを休止したりして、家にこもることが多くなっているようです。感染を避けるためにはやむをえないことですが、人としゃべったり関わったりすることが減少するので、やはり認知症に関しても適切なサービスが受けられないままに進行することが心配されます。実際の人数など影響の程度が明らかになるのは、ずっと先のことと思われますが。

さて、認知症に関しての最新の話題としては新薬承認に関するものがあります。アデュカヌマブという名の抗体治療薬ですが、アメリカのバイオジェンという会社と日本のエーザイが共同で開発したものです。アルツハイマー型認知症の原因と目されるアミロイドβを除去する効果があるとされます。この薬を認知症の前段階とされるMCI(mild cognitive impairment)やアルツハイマー型認知症早期の段階の人に使用すると、認知症の進行を抑える効果があるということです。アメリカでは今年の6月に迅速承認されましたが、条件として追加データが要求されており、その結果によっては承認が取り消される可能性もあります。ところがEUでは、今月この薬は承認しないという結果が出ました。理由としては、「アミロイドβを減らすものの症状の改善は立証されていない」ということでした。
 日本では、12月22日に厚生労働省の専門部会による承認の是非の発表がありました。アメリカとヨーロッパでの評価が相反するものだったので、いったい日本ではどうなるかと私も注目していましたが、今回は承認が見送られることとなり、その理由は「薬の有効性を判断するのが困難」というものでした。

なぜ認知症の薬が世界中の話題になるかというと、今のところ認知症の進行を抑える有効な薬がないからです。アルツハイマー型認知症に対する薬は、ドネペジルを始めとしたコリンエステラーゼ阻害薬3種類と、それらとは異なった機序のメマンチンが2011年までに相次いで登場し、広く使われることになりました。これらの薬は、認知症による認知機能低下を改善させる働きまではないが、多少は進行を遅らせる効果があると言われています。
 アルツハイマー型認知症の高齢者にこれらの薬を処方して、実際に満足ができるような効果が見られているのでしょうか。実は、他の疾患の薬と比べてみると、認知症の薬がどれほど満足度が低いかが分かります*。医薬政策研究所の医療ニーズ調査で明らかにされたアンメット・メディカルニーズ、つまり治療満足度の低い薬に対する製薬企業の取り組み状況を明らかにするデータがあります※1。それは、60の疾患の治療に対する薬剤の貢献度と治療満足度を、それぞれ縦軸と横軸にパーセンテージで表したグラフです。それによると、認知症の薬は薬剤の貢献度も治療満足度もともに低く、ほぼ最低レベルとなっています。認知症よりも満足度が低い疾患は1つしかなく、それは神経難病として有名なALS(筋委縮性側索硬化症)です。逆に、薬剤貢献度と治療満足度の両方が極めて高い疾患には、高血圧症、糖尿病、喘息などがあります。以前は不治の病であった多くの癌、胃がんや大腸がんなどでも、貢献度・満足度ともにかなり高く評価されています。

認知症に対する広い意味での診療は、はっきりとした効果が見えにくい薬よりも、実際的に患者の環境を整えたり、介護やケアのより適切な支援の道筋をつけることが重要となってきています。私たちのクリニックでも、認知症と診断した高齢者を精査のために大学病院などに紹介していますが、最近は認知症の薬を勧められることはほとんどなく、介護やケアのアドバイスを受けるようになっています。
 2017年の日本の認知症疾患診療ガイドラインでも、まず「認知症診断後の介入・サポートはどうあるべきか」について述べられており、患者のコミュニティへのつながりを維持したり、患者支援ネットワークにつながるよう促したりする診断後支援が重要である、と記されています※2。社会制度や医療資源に関しても多くのページが割かれています。
 コロナ禍の今は感染が広がる懸念があるので、これらの社会的なサポートも積極的に行いにくくなってきています。必要なケアやサポートは、感染症対策を取りつつ進めていくべきだと思います。


※1:アンメット・メディカルニーズに対する医薬品の開発状況‐2020年の動向‐ 中尾朗 政策研ニュース No.61:53-58, 2020年
※2:認知症疾患診療ガイドライン、第3章 治療 54-117, 2017年

(2021/12/30 20:33:15)

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