時をかけるおばあさんたちTime Travelling Old Ladies
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その13 高齢者世帯の認知症介護
高齢者世帯で暮らしていると、当たり前のことですが二人ともさらに歳を取り、身体が衰えてきます。中高年の人でも、若いころの自分と比べると年々身体の衰えを感じると思いますが、高齢者の衰えの速さはその比ではありません。場合によっては半年や1年で、自転車に乗っていた人が歩くのも困難になったり、急に物忘れや認知症が進んだりします。そして、足腰の衰えや内臓疾患の進行などで日常的な生活機能が損なわれてくると、「老々介護」や「認々介護」と呼ばれる状態になってきます。
夫婦の片方に介護が必要になると、必然的にもう片方が手助けをすることになります。圧倒的に多いのは、奥さんがご主人を介護する場合です。一般的に奥さんの方が年下であることが多く、また女性の方が同じ年齢でも心身ともに元気なことが多いことがその理由でしょう。そして、女性はこれまでの人生で、大抵家族や子供の面倒を見てきているので、ご主人の介護もあまり違和感なくできることが多いです。ケアマネとも相談しながら、デイサービスやショートステイなども取り入れ、上手にケアプランを遂行させ、しかも自分のやりたいことをできる時間も持ちます。ご主人に対しては結構厳しい面もあり、リハビリ主体のデイに参加させたり、運動機能が衰えないようにはっぱをかけたりします。
このように涙ぐましい奥さんの支えがあっても、やはり二人ともさらに衰えてきます。もし、ご主人が身体的にだけ衰えるのであれば、車いすからベッド上へとケアを適応させていくのも比較的スムーズです。けれどもご主人の認知症が中等度以上に進行してしまうと、精神的にも介護の負担が重くなります。たとえば理解力が低下してこちらの言うことが分からなくなる上に、同じことを何度も何度も繰り返して言ったり聞いたりし、それが1日中繰り返されるようになったら・・・。さらに暴言や暴力が見られるようになると、介護がとても困難になります。また、逆に奥さんが事故や転倒、急病で入院や手術が必要になったりすると、一挙に介護できなくなります。そのような場合には、一時的には介護が困難になりますが、女性の方々は現実を受け入れ、対処する術を心得ていることが多いので、大丈夫です。子供やケアマネ、かかりつけ医などに相談して、ご主人を施設に入れたり、ケアサービスを増やしたりして何とか乗り越えます。
ところが、ご主人が奥さんのケアを主に担う場合には、このようにことがうまく運ばないことがあります。男性は、これまでの人生でも家庭外での仕事が主で、家で家族の世話をするのは慣れていないことが多々あります。もちろん、家事の得意な男性もいますし、上手に介護サービスを利用してうまく生活を回している方々もいらっしゃいます。問題となるのは、奥さんが認知症になり、しかも自分が世話する羽目になることを想像もせず、認知症や介護の知識もなく、現実を前にしてどうして良いかわからないご主人たちです。
彼らは料理や掃除・洗濯などの家事は何とかこなせますが、奥さんの認知症が進行していくのを呆然と眺め、どうにか良くならないだろうか、と願っています。奥さんが訳の分からないことを言い出すと、そのたびにショックを受けて立ち直れないほどです。一方、責任感は強く、子供達には負担をかけたくないので、自分で何とかしようと悲壮な決意をします。先日このようなご主人に、「家をバリアフリーに改装して、今後介護がしやすいようにしようかと思っています」と相談されたので、それは止めるようにとアドバイスしました。一人で奥さんの介護をすべて担わず、デイやショートなどのサービスを取り入れる、長期的には施設入居も視野に入れることを提案しました。ご主人も持病があって、この先体力的にも介護が続けられるかどうか分かりません。「もしご主人が先に亡くなったら、奥さんはそれこそ困るでしょう。ケアはプロに任せていくようにして、自分の人生を考えて下さい。」と話しました。
その次の診察日には娘さんも同席され、「先生に今後のアドバイスをしてもらって助かりました。父も私の言うことは聞かないものですから。私も、母の下の世話が必要になったら施設入居が必要だと思います」と感謝されました。とは言っても、私の実の父親も私の言うことはなかなか聞いてくれませんが。
(2020/09/04 13:54:17)